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「恋愛時代」「カップルズ」とも濱口竜介監督作品との共通点が多く見られるのが興味深い。

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「東京藝術大学大学院映像研究科第二期生修了制作作品集2008」
【1日目】新進演出家のバーディ(王也民(ワン・イエミン))は新作舞台が有名小説の盗作だと騒がれ、カルチャー企業経営者のモーリー(倪淑君(ニー・シューチン))に泣きつく。問題の小説は彼女の義兄の作品なのだ。バーディ、モーリー、その右腕で親友でもあるチチ(陳湘琪(チェン・シャンチー))、チチの恋人で公務員のミン(王維明(ワン・ウェイミン))の4人は学生時代からの友人。モーリーの婚約者アキン(王柏森(ワン・ポーセン))は大陸へビジネスの勉強に行っていたが、彼女の悪い噂を聞きつけ台北に帰ってくる。彼は投資コンサルタントの友人ラリー(鄧安寧(ダニー・ドン))に相談するが、ラリーはモーリーの会社で働く若い美人フォン(李芹(リチー・リー))と不倫関係にあり、モーリーに事実を追及され、モーリーの会社の経営悪化につけ込もうとしていたところがやむなく退散。チチはミンから転職先を紹介されるが気乗りせず
、曖昧な返事をする。ミンは人当たりの良すぎる彼女の気持ちが分からなくなり、モーリーを槍玉に挙げると、チチと口論になる。 チチが帰宅するとモーリーから呼び出しを受ける。夜更けのプールサイドで2人は語らうが、チチは周囲から優等生ぶっていると言われるのが不満だと打ち明け、モーリーにも昔のように悩みを話してと訴える。【2日目】アキンはモーリーに、結婚の時期についてそれとなく探りを入れるが気のない返事。そんな折、彼はラリーに「モーリーとバーディが浮気している」と吹き込まれ激怒、乗り込んでいったTV局でバーディと乱闘を演じることに。モーリーはミンに昼食に誘われるが、チチが転職したがっていることを知り困惑、オ
フィスでチチを激しくなじり、チチは自分の意向を無視したミンと絶交状態に。女優志望のフォンはチチの紹介でバーディの稽古場へ。そこでバーディから口説かれるが、彼がモーリーに呼び出された隙に、乗り込んできたラリーと鉢合わせ。同行してきたアキンは、モーリーとバーディの喧嘩の場面に遭遇して誤解が解け、バーディとも意気投合。自分の不手際で同僚を退職に追い込んでしまい落ち込んで帰宅したミン。すると家の前にはモーリーが待っていた。チチへのとり成しを頼もうとしたが、ミンは誰とも話す気は無いと無愛想に答え、2人は口論し、取っ組み合いの喧嘩に。ところが、成り行きでベッドインしてしまう。関係を急ぐモーリーを冷静に諭すミン。互いの感情は行き違う。チチはモーリーの義兄で、バーディが争っている作家(閻鴻亜(イエン・ホンヤー))の許へ。彼はかつて恋愛小説を書いていたが、今は厭世感に満ちた小説を上梓しようとしている。チチはそこで、「誰も私のことを分かってくれない」と泣き出し、作家から助言を受けるが、作家の妻であるモーリーの姉(陳立美(チェン・リーメイ))に追い出される。モーリーの姉と作家は仮面夫婦状態。TVキャスターの妻の方は仲を繋ぎ留めようと必死だが、夫はそんな状況に疲れ、反射的にチチに愛の希望を見いだし、タクシーに乗った彼女を追いかけるが、衝突して倒れてしまう。しかしそれが啓示になったのか、「深刻ぶらず、誠実に生きればいい。僕は間違っていた。」と、来た道を戻っていった。その言葉に考えさせられるチチ。そして【3日目】の朝がやってくる―(「エドワード・ヤンの恋愛時代」)。
「エドワード・ヤンの恋愛時代」は、エドワード・ヤン(楊徳昌、1947-2007(59歳没))監督による1994年制作の台湾映画で、裕福なエリート階級に属しながら心に空虚感を抱く若者たちが、人生の転機を迎える3日間を描く青春群像劇。2022年に4Kレストア版が第79回「ヴェネツィア国際映画祭」にて初公開され、同年の「ニューヨーク映画祭」、第35回「東京国際映画祭」でも公開されています。1995年7月本邦公開で、そう言えば、香港のウォン・カーウァイ(王家衛)監督の「恋する惑星」('95年)なども同年同月の本邦公開でした。同じ台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督が「冬冬(トントン)の夏休み」('84年)、「童年往時 時の流れ」('85年)と田舎を舞台とした作品を撮っているのと対照的ですが、この監督も後に「ヤンヤン 夏の想い出」('00年)という田舎を舞台とした作品を撮ることになります。
濱口竜介監督がエドワード・ヤン監督の映画を絶賛していますが、濱口竜介監督の作品と似ているところが感じられ、実際に影響を受けているのでしょう。濱口竜介監督の「ハッピーアワー」('15年)は複数の女性の物語が交差する群像劇でしたが、長尺で登場人物たちの会話と人間関係の変化を丁寧に追っている点が、この「エドワード・ヤンの恋愛時代」における都市生活描写と共通しています。また、「ドライブ・マイ・カー」('21年)とは、登場人物たちが過去の傷や愛の不在を抱え、他人との対話を通して自己と向き合う点で、この作品が持つ「喪失と回復」のテーマと通じます。特に夫婦やカップルの関係の歪みと、それを受け入れるまでの過程に共通点があるように思いました。

バブル経済終期の台北に生きる4人の少年たち。リーダー格のレッドフィッシュ(唐従聖(タン・ツォンシェン))、二枚目の女たらしホンコン(張震(チャン・チェン))、口達者なトゥースペイスト(王啓讃(ワン・チーザン))、新入りのルンルン(柯宇綸(クー・ユールン))。悪徳実業家を父に持つレッドフィッシュの号令のもと、
詐欺まがいの荒稼ぎをしたり、一人の女の子を「共有」したりと、アパートの一室で無軌道で気ままな生活をしていた。 ある日、イギリス人の元恋人マーカス(ニック・エリクソン)を追ってきたフランス娘マルト(ヴィルジニー・ルドワイヤン)が彼らの前に現れる。レッドフィッシュは、右も左も分からない彼女を言葉巧みに誘い入れ、売春組織に売り飛ばそうと企むが、根は純情なルンルンがマルトを実家の屋根裏に匿い、レッドフィッシュの企みは水泡に帰す。悪名高い父親を疎ましく思いつつも、その冷酷な人生哲学に倣って生きるレッドフィッシュは、かつて父を破産に追い込んだ女アンジェラ(呉家麗(キャリー・ン))に対する復讐計画を練る。ホンコンに彼女を誘惑するよう仕向け、またトゥースペイストを占い師として彼女の許に送り込み、金を騙し取ろうとする。レッドフィッシュの父は失踪中で、暗黒街の組織は息子のレッドフィッシュを人質にとっておびき出そうとするが、組織の間抜けなヒットマンの2人は(呉念眞(ウー・ニェンチェン)/王柏森(ワン・ポーセン))は勘違いして、ルン
ルンとマルトを誘拐、しかしマルトが機転を利かせて2人は脱出に成功。レッドフィッシュは逆にヒットマンを手中にとり、父(張国柱(チャン・クオチュー))の隠れ家に案内するが、人生に疲れた父は愛人(葉全真(イエ・チュエンチェン))と共に心中した後だった。レッドフィッシュは、冷酷さそのものだった父が隠し持っていた弱さを初めて知る。ルンルンはマルトに想いを伝えるが、彼女は自分を危ない目に合わせた彼に怒りをぶつけ、一旦はマーカスに引き取られていく―(「カップルズ」)。
「カップルズ」はエドワード・ヤン監督の1994年発表作で、第46回「ベルリン国際映画祭アルフレッド・バウアー名誉賞」、第33回「台湾金馬奨助演男優賞」(ワン・チーザン)、第9回「シンガポール国際映画祭監督賞」、第18回「ナント三大陸映画祭ナント市賞」などを受賞しています。1996年12月本邦公開で、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の 「花の影」('96年/香港・中国)が同年同月の本邦公開でした。
これも、複数人のカップルや関係性を群像劇として描き、会話劇を通じて人間関係の崩壊と再構築を描く構造が、濱口竜介監督の「ハッピーアワー」と似ており、都市生活者の複雑な人間模様を背景に、会話の積み重ねによってキャラクターの心理的変化を描き出す手法も共通しています。また、こちらも、登場人物たちが過去の傷や愛の不在を抱え、他人との対話を通して自己と向き合う点で、「ドライブ・マイ・カー」とも似ています。さらには、濱口竜介監督の「PASSION」('08年)がこの映画とよく似ているところがあるように思いました。
「PASSION」は、東京大学文学部を卒業後、新設された東京藝術大学大学院映像研究科に改めて入学し、映画作りを学んだ濱口監督が、その修了作品として発表した恋愛群像劇。長年恋人同士だった一組のカップルが婚約を発表したのを機に、2人やその周囲の男
女の間でもつれた恋愛感情が一気に顕在化する、そんな彼らの激しく揺れ動く恋心を、緻密な会話劇や驚異的な長回し撮影を通じて描写いた作品です。一院生の卒業制作でありながら、第56回「サン・セバスチャン国際映画祭」や第9回「東京フィルメックス」にも出品され、濱口監督の名前と才能が国内外に広く知られる出世作となりましたが、早くからエドワード・ヤン監督の影響を受けていたのだなあと。
90年代の台北と現代の東京(郊外)と背景こそ異なりますが、両作とも、親密な関係にあるカップルや友人グループが、嘘、裏切り、隠された欲望によって崩壊していく過程を描いていて、エドワード・ヤン監督は「カップルズ」を「危険な」映画と位置づけ、濱口監督もまた、男女の恋愛における「PASSION(情熱)」が抱える危うさを容赦なく描き出しています。多少ネタバレになりますが、「カップルズ」では、リーダー格のレッドフィッシュが何を指針に生きればいいのかを虚無の中に見失ったまま終わるのに対し、最も純粋な心を持つルンルンがフランス人女性マルテと一時は危機的な状況になりながらも愛を貫くことで、周囲の空気が少しずつ浄化されていく流れです。「PASSION」も、主人公の男女カップル(省吾と果歩)は、同級生の結婚を祝うパーティーで、省吾の過去の浮気が発覚したことで激しい衝突を起こり、他のカップルにも同様の摩擦が生じて一時はカップルの組み換え状況になりはするものの、結局は元の鞘に収まりますが、しかしながらカップルの関係はこれまでとは同じものではなく、愛情の矢印が一致しない気まずい状況を浮き彫りにしたまま幕を閉じるという、こちらも、ハッピーエンドとやバッドエンドを混ぜたような終わり方です。(濱口監督がヤン監督作の影響を受けたのだろうが)濱口監督作品との共通点が多く見られるのが興味深いエドワード・ヤン監督の2作でした。
「エドワード・ヤンの恋愛時代」●原題:獨立時代(英題: A CONFUCIAN CONFUSION)●制作年:1994年●制作国:台湾●監督・脚本:楊徳昌(エドワード・ヤン)●製作:余為彦(ユー・ウェイエン●音楽:林強(リン・チャン).●撮影:黄岳泰(アーサー・ウォン)/張展(チャン・チャン)/李龍禹(リー・ロンユー)/洪武秀(ホン・ウーショウ)●時間:127分/129分(4Kレストア版)●出演:陳湘琪(チェン・シャンチー)/倪淑君(ニー・シューチン)/王維明(ワン・ウェイミン)/王柏森(ワン・ポーセン)/鄧安寧(ダニー・ドン)/(李芹(リチー・リー))/(閻鴻亜(イエン・ホンヤー)/陳立美(チェン・リーメイ)●日本公開:1995/07/2023/08(4Kレストア版)●配給:シネカノン/ビターズ・エンド(4Kレストア版)●最初に観た場所:シネマート新宿(スクリーン2)(25-04-22)(評価:★★★★)
「カップルズ」●原題:麻將(英題:MAHJONG)●制作年:1996年●制作国:台湾●監督・脚本:楊徳昌(エドワード・ヤン)●製作:余為彦(ユー・ウェイエン●音楽:林強(リン・チャン).●撮影:李以須(リー・イーシュー)●時間:121分●出演
:ヴィルジニー・ルドワイヤン/唐従聖(タン・ツォンシェン)/柯宇綸(クー・ユールン)/張震(チャン・チェン)/王啓讃(ワン・チーザン)/陳欣慧(アイビー・チェン)/呉念眞(ウー・ニェンチェン)/王柏森(ワン・ポーセン)/張国柱(チャン・クオチュー)/葉全真(イエ・チュエンチェン)/呉家麗(キャリー・ン)/ニック・エリクソン/ダイアナ・デュピス/林海象(特別出演)●日本公開:1996/12/2025/04(4Kレストア版)●配給:シネカノン/ビターズ・エンド(4Kレストア版)●最初に観た場所:シネマート新宿(スクリーン1)(25-04-22)(評価:★★★★)
張震(チャン・チェン)(当時20歳)
張震(チャン・チェン)「ブエノスアイレス」(1997)/「グリーン・デスティニー」(2000)/「グランド・マスター」(2013)/「黒衣の刺客」(2015)



「PASSION」●制作年:2008年●監督・脚本:濱口竜介●プロデューサー:藤井智●撮影:湯澤祐一●時間:115分●出演:河井青葉/岡本竜汰/占部房子/岡部尚/渋川清彦●公開:2008/03●発表:東京藝術大学大学院映像研究科・第二期生修了制作展●最初に観た場所:池袋・新文芸坐(24-05-09)(評価:★★★★)



唐代8世紀後半、聶隠娘(ニエ・インニャン)(舒淇(スー・チー))が、13年ぶりに両親の元へ帰ってくる。道士・嘉信(ジャーシン)(許芳宜(シュー・ファンイー))に育てられ、暗殺者としての修行を積んだ彼女には、魏博(ウェイボー)の節度使・田季安(ティエン・ジィアン)(張震(チャン・チェン))暗殺命令が下されている。ある夜、季安の館に何者
かが忍び入り、季安は、室内に残された玉玦の片割れを見て、幼馴染みだった隠娘が自分の命を狙っているのを知る。かつて、先帝の妹で、妾腹の季安の養母だった嘉誠(ジャーチャン)公主(許芳宜(シュー・ファンイー)二役)の計らいで婚約した隠娘と季安は、その証に玉玦を半分ずつ託されたが、田家と元家が同盟を結んだため結婚は破談、隠娘に身の危険が迫ったため、嘉誠は双子の姉・嘉信に彼女を預けたのだ。隠娘の伯父・田興(ティエン・シン)(雷鎮語(レイ・チェンユイ))は、朝廷寄りの献言をしたことで季安の怒りを買い、国境へ左遷されることになる。義弟である
隠娘の父・聶鋒(ニエ・フォン)(倪大紅(ニー・ダーホン))が護送するが、道中で元家の刺客たちに襲われる。田興は生き埋めにされかけ、聶鋒らも縛られるが、通
りがかりの鏡磨きの青年(妻夫木聡)が助けに現れる。その青年も追い詰められたところに隠娘が駆けつけ、刺客たちを撃退するが、そんな娘に聶鋒は、道士に預けたのは誤りではなかったかと後悔する。別れも告げず去った隠娘は、仮面の女刺客・精精兒(ジンジンアー)(周韻(チョウ・ユン))に襲われ手傷を負い、後を追ってき
た鏡磨きの青年の治療を受ける。青年はかつて日本から遣唐使としてやってきたのだが、今は鏡磨きをしながら旅していた。季安の側室・瑚姫(フージィ)(謝欣穎(シェ・シンイン))が不意に廊下で倒れ込む。季
安の館に忍び入っていた隠娘は、呪術に苦しむ瑚姫を救い、駆けつけた季安に瑚姫の妊娠を告げて去る。季安は、正妻の田元氏(ティエン・ユエンシ)(周韻(チョウ・ユン)二役)が呪術師を雇い、瑚姫を苦しめたのだと知る。呪術師は射殺され、季安は元氏を斬り捨てようとするが、母を庇う息子を前に思い止まる。嘉信を訪れた隠娘は、季安暗殺を遂行できなかったと告げる。嘉信は隠娘を、暗殺者としての技術は完成しながらも情を捨てられなかったのだと詰る。隠娘と嘉信は一戦を交えるが、隠娘の剣術の腕前は、師匠の嘉信に引けを取らないものとなっていた。隠娘は剣を収めて立ち去り、嘉信はそれを呆然と見つめる。隠娘は、新羅へ向かう鏡磨きの青年らと共に、霧深い草原の彼方へと姿を消す―。
2015年公開の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督による台湾・中国・香港合作映画で、同監督初の武侠映画です。中華圏の監督は、芸術映画を撮って"巨匠"と言われるようになっても武侠映画を撮ることにこだわりがあるようです。代表的なものでは、同じ台湾出身のアン・リー(李安)監督の「
」を受賞、「HERO」はベルリン国際映画祭の「銀熊賞(アルフレード・バウアー賞)」を受賞、「グランド・マスター」は香港国際映画祭「アジア・フィルム・アワード」受賞と、"巨匠"たちは武侠映画においても賞レースでの強さを発揮しています。そして、この「黒衣の刺客」も、第68回カンヌ国際映画祭で「監督賞」を受賞し、「アジア・フィルム・アワード」も、最高賞である「作品賞」ほか主演女優賞(舒淇(スー・チー))、助演女優賞(周韻(チョウ・ユン))などを受賞しています。
ただ、この作品は先に挙げた3作品に比べ武闘シーンは多くなく、カンフー映画とまでは呼べない内容であり、侯孝賢監督自身も、インタビューで「カンフーアクションやワイヤーアクションには関心がなく、黒澤明監督のサムライ映画の動き、背景に大自然が映るような部分に興味があった」という趣旨の発言をしています。話が前半緩やかに進むのは、複雑
な人間関係図を観る者に分からせるためかとも思いましたが(それでも説明不足で分かりにくのだが)、後半になってもゆったりしたペースはそれほど変わらず、黒澤作品の前期のダイナミズムよりも、後期の様式美の影響が強く感じられます。時々、水墨画のような荘厳な背景が現われて、その美しさにはっとさせられますが、娯楽映画的なアップテンポの展開を期待した人にはやや退屈に感じられたかも。後半の映
像美は、小栗康平監督の「
妻夫木聡演じる窮地に追い込まれたヒロインを助ける日本人青年(彼が元遣唐使であるという説明は映画の中では無い)の日本に居る妻役を務めた忽那汐里のシーンは、侯孝賢監督が来日した際のインタビューによると、編集の女性スタッフから「青年に奥さんが居るなんて、主人公の女刺客が可哀そう」という声が上がって国際版でカットされ、それが、日本公開版で監督の希望で戻されたとのこと。青年を日本で待つ人が居ることで、隠娘の孤独が一層深まるようにしたと明かしていますが、原作(原作者の裴鉶(はいけい)は晩唐の官僚&伝奇作家)では隠娘はこの青年と一緒になるようです。映画でもそう解釈できなくもない?(でも何故最後に向かう先が新羅なのか。やっぱり青年が朝鮮半島経由で日本に帰るため?)。
その他に、隠娘の子供時代なども撮ったそうですが、最終的に全然残さなかったそうで、結局、いろいろな面で説明不足になったように思います。妻夫木聡が中国語を話すシーンもあったのが、これも「そんなに説明しなくてもわかると判断しました。セリフにしすぎると想像できなくなるからです」としてカットしたそうです(だから彼が何者なのかよく分からない)。但し、妻夫木聡が中国語を話すシーンをカットしたのは、小栗康平監督の「
「黒衣の刺客」のヒロインを演じた舒淇(スー・チー)(1976年生まれ)は「ミレニアム・マンボ」('01年/台湾・仏)以来ずっと侯孝賢監督作品の常連で、ルイ・レテリエ、コリー・ユン監督の「トランスポーター」('02年/仏・米)で欧米映画にも進出しました。「トランスポーター」は、「
ラン・ブルー
ョン映画によくあるモチーフです。スー・チーの役どころは、ジェイソン・ステイサム演じる男フランクが請け負った仕事で運んだバッグの中に詰め込まれた中国人の女性で、自分を助けてくれたフランクを利用して父親の悪事を暴こうとしたが次第に彼に惹かれていくというもの。確かにリュック・ベッソン監督の「レオン」('94年/仏)っぽい雰囲気もありましたが、基本はアクション映画。ただし、この頃のジェイソン・ステイサムは演技もアクションもまだ完成されていない感じで、むしろヒロイン役のスー・チーの演技が上手くて楽しめました。スー・チーはその後、侯孝賢監督の「百年恋歌」('05年/台湾)で第42回「金馬奨最優秀主演女優賞」を受賞、カンヌ国際映画祭にも毎年登場し、'09年の第62回「カンヌ国際映画祭」では審査員を務めるなどし、'15年にこの侯孝賢監督の「黒衣の刺客」で第10回「アジア・フィルム・アワード最優秀女優賞」の受賞に至ったということで(39歳にして可憐!)、台湾・香港映画界を代表する国際派女優の一人となっています。
「黒衣の刺客」●原題:刺客聶隱娘/THE ASSASSIN●制作年:2015年●制作国:台湾・中国・香港●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)●製作:廖慶松●脚本:侯孝賢/朱天文(チュー・ティエンウェン)●音楽:林強(リン・チャン)●撮影:李屏賓(リー・ピンビン)●時間:93分●出演:舒淇(スー・チー)/張震
(チャン・チェン)/許芳宜(シュー・ファンイー)/周韻(チョウ・ユン)/倪大紅(ニー・ダーホン)/咏梅(ヨン・メイ)/雷鎮語(レイ・チェンユイ)/謝欣穎(シェ・シンイン)/阮經天(イーサン・ルアン)/謝欣穎(ニッキー・シエ)/梅芳(メイ・ファン)/妻夫木聡/忽那汐里●日本公開:2015/09●配給:松竹メディア事業部(評価:★★★)
舒淇(スー・チー)
謝欣穎(ニッキー・シエ)
「トランスポーター」●原題:LE TRANSPORTEUR/THE TRANSPORTER●制作年:2002年●制作国:フランス・アメリカ●監督:ルイ・レテリエ/コリー・ユン(元奎)●製作:リュック・ベッソン/スティーヴ・チャスマン●脚本:リュック・ベッソン/ロバート・マーク・ケイメン●音楽:スタンリー・クラーク●撮影:ピエール・モレル●原作:裴鉶(はいけい)「聶隱娘」●時間:106分(インターナショナル版)/108分(日本オリジナル・ディレクターズカット版)●出演:ジェイソン・ステイサム/スー・チー(舒淇)/マット・シュルツ/フランソワ・ベルレアン/リック・ヤン/ディディエ・サン・ムラン/ヴァンサン・ネメス/アドリアン・デアルネル●日本公開:2003/02●配給:アスミック・エース(評価:★★★)






香港から地球の裏側に当たるアルゼンチンを
旅するウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)のゲイのカップルは、それが「やり直す」ための旅行にもかかわらず、イグアスの滝へ行く途中で道に迷って荒野のハイウェイで喧嘩別れしてしまう。一人になったファイは旅費不足を補うためブエノスアイレスのタンゴバーでドアマンとして
働くが、そこへ白
人男性とともにウィンが客として現れる。以降ウィンは何度もファイに復縁を迫りその度ファイは突き放すが、嫉妬した男性愛人にケガを負わされたウィンがアパートに転がり込んで来たため、やむなく介護する。ウィン
との生活にファイは安らかな幸せを感じるが、ケガの癒えたウィンはファイの留守に出歩くようになり、ファイは独占欲からウィンのパスポートを隠す。一方、ファイは転職した中華料理店の同僚で台湾からの旅行者のチャン(チャン・チェン)と親しくなり、そんなファイのもとからウィンは去っていく。旅行資金が貯まったチャンは南米最南端の岬へ旅立ち、チャンの出発後、ファイは稼ぎのいい食肉工場に転職、旅費が貯まりイグアスの滝へと旅立つ。香港への帰途、ファイは台北のチャンの実家が営む屋台を訪れる―。
ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の1997年の香港映画で、同年の
撮影は難航したようで、トニー・レオン(梁朝偉)は「同性愛者役はできない」と一旦出演を辞退したものの、「亡父の恋人をアルゼンチンに探しに行く息子の物語」に書き改めた新企画を示されて了承、ところが現地に着いてみるとストーリーは大きく変更されていました(監督に騙された?)。男同士でのラブシーンにはかなり抵抗があり、撮影後に呆然としてしていたそうです。
また、相方役のレスリー・チャン(張國榮)は、映画俳優と人気歌手の掛け持ちで、撮影当時コンサートツアーの予定があり、遅延を重ねた撮影の途中でやむを得ず香港へ帰国してしまい、収拾のつかなくなったストーリーを完結させるために、兵役直前で休業に入る予定だった台湾出身のチャン・チェン(張震)と、香港出身の歌手シャーリー・クワン(關淑怡)が招集されましたが、チャン・チェンが中華料理店でのファイの後輩にあたるチャンの役でかなり重要な役どころで出ているのに対し、シャーリー・クワンの出演シーンは本編
では1カットも使われていません。チャン・チェンはカンフー俳優でもあり、兵役からの復帰後、アン・リー監督の「
・米)などに出演し、近年ではウォン・カーウァイ監督、トニー・レオン主演の武術映画「
こうしたことも含め、全編を貫いているのは、人間は孤独であり、その辛さに耐えられるかという問いかけではないでしょうかか。舞台が地球の裏側だけに、そのことが一層ひしひしと感じられます。そうした中で、一人では生きることが出来ないのがウィン
で、次第に破滅に向かって行くタイプかも(ラストの方では、男性の愛人を仮想ファイに見立てていた)。一方で意外と逞しいのが中華料理店の後輩のチャンで、先輩の代わりに南米最南端の岬へ行って悩みを捨ててきてあげるからとファイにテープレコーダー
を渡しますが、ファイはテープレコーダーを握りしめるも言葉はなく、涙を流すしかありませんでした。それまで何となく距離を置いてこの映画を観ていたつもりが、このシーンではこちらも
泣けました。ファイが仕事に打ち込んできたのは、ウィンとの別離の痛みを忘れるためというのもあったのではないでしょうか(でも忘れられないでいる)。というわけで、チャンは約束通りしっかり南米最南端のエクレルール灯台まで行き('97年1月)、そのファイが"自らの悩みを吹き込んだ"カセットを聴くも、そこにはファイの言葉は無く、泣き声のようなものしか聴こえませんでした。
一方のファイも最後には、貯めた金で中古車を買って旅の目的地だったイグアスの滝へ行っており、そこでウィンの不在を再認識しながらも彼との過去を封印したような感じで、更に帰国時には台北に寄って('97年2月。テレビでは鄧小平死去のニュースが伝えられている。この辺りは物語が撮影とリアルタイムになっているようだ)、チャンの実家が営む屋台を訪れ、チャンの写真を一枚盗むことで、「もし会おうと思えば、どこでだって会うことができる」と確信します。こうした行為は何れも自らの過去を整理するための(同時に未来へ向けての再生のための)儀式のように思えました。
そう言えば、「



も、宝森ととも佛山を訪れていた宝森の娘の宮若梅(ゴン・ルオメイ)(チャン・ツィイー(章子怡))が
異を唱え、葉問に試合を申し込む。葉問は若梅と試合い、試合いを通じて二人は心を通わせて、若梅は葉問を認める。若梅は父と共に東北に帰り、葉問と若梅は手紙を交し合うようになる。やがて準備の整った葉問は東北を訪れようとした時、日中戦争が勃発する―。
2013年のウォン・カーウァイ(王家衛)監督映画で、2014年・第38回香港国際映画祭「
原題は「一代宗師」。香港の武術家でブルース・リーの師匠でもあった葉問(よう もん、イップ・マン、1893-1972)がモデルで、この葉問をモデルにした映画には、ウィルソン・イップ監督、ドニー・イェン主演のイップ・マ
ン・シリーズ3作(「イップ・マン 序章」('08年/香港)、「イップ・マン 葉問」(10年/香港)、「イップ・マン 継承」('15年/香港))やハーマン・ヤオ監督、デニス・トー主演の「イップ・マン 誕生」('08年/香港)、同じくハーマン・ヤオ監督でアンソニー・ウォン主演の「イップ・マン 最終章」('13年/香港)などもあります(「イップ・マン 葉問」のエピローグで少年・李小龍(後のブルース・リー)が葉問を訪ねる場面がある)。
「
カンフー・アクションもありますが、しっとりとした美しい映像が続き、米雑誌「TIME」が発表した「2013年の映画ベスト10」では5位と高評価されたように、ウォン・カーウァイらしい映像美学が前面に出ています(1936年当時の娼館"金楼"のセットなどは凝っていた)。但し、欲を言えば、ストーリーの方をもう少し上手く作って欲しかったように思います。
主要な役どころでは、ルオメイの父の敵役の馬三(マーサン)を演じたマックス・チャン(張晋)はカンフー俳優で(ウィルソン・イップ監督の「イップ・マン 継承
」('15年/香港)にも出演している)、一線天(カミソリ)を演じたチャン・チェン(張震)は、台湾出身ですが(ウォン・カーウァイ監督の「
しかし、結局は作品としてのテーマが、ルオメイの復讐劇だったのか、彼女の技の継承の問題だったのか、彼女のイップ・マンに対する恋心だったのか、あまりに沢山盛り込み過ぎて、やや焦点がぼけてしまった感じです。説明不足な所は説明不足で、チャン・チェン演じる一線天(カミソリ)などは、本筋の話とどう絡むのかが分かりにくかったです(日本に協力し満洲国奉天の協和会長となった敵役のマーサンに対して、中国国民党の特務機関所属の暗殺者として最前線にいたカミソリという対比か。最後は理髪店の店主になったようだが、床屋業の傍ら技を後世に伝えた?)。
トニー・レオン演じるイップ・マンは、カンフーの技比べの場面でもいつも余裕の表情で、チャン・ツィイー演じるルオメイの十数年ぶりの
告白を聴く時も穏やかな表情で、いくら抑制の効いた演技といっても、ちょっと現実ありえない?(好きな俳優なのでまあいいか)。チャン・ツィイーは、アン・リー(李安)監督 の「
男女が運命的に出会いその思いが行き違うのは、「花様年華」に似ているように思いますが、戦争に最も翻弄されたのは、韓国の人気女優・ソン・ヘギョ(宋慧敎)が演じた、先に東北に行って結局あとから来るはずだったイップ・マンと離れ離れになった妻の張永成(チャン・ヨンチェン)のようにも思えます。



「グランド・マスター」●原題:一代宗師/THE GRANDMASTER●制作年:2013年●制作国:香港・中国●監督:ウォン・カーウァイ(王家衛)●製作:ウォン・カーウァイ/ジャッキー・パン・イーワン●脚本:ゾウ・ジンジ/シュー・ハオフォン/ウォン・カーウァイ●撮影:フィリップ・ル・スール●音楽:梅林茂/ナタニエル・
メカリー●時間:123分●出演:トニー・レオン(梁朝偉)/チャン・ツィイー(章子怡)/チャン・チェン(張震)/マックス・チャン(張晋)/ワン・チンシアン(王
慶祥)/ソン・ヘギョ(宋慧敎)/チャオ・ベンシャン(趙本山)/ユエン・ウーピン(袁和平)(アクション指導も)●日本公開:2013/05●配給:ギャガ(評価:★★★)

チャン・ツィイー
剣の名手として武林にその名を知られた李慕白(リー・ムーバイ)(チョウ・ユンファ〈周潤發〉)は、血で血を洗う江湖の争いに悩み、剣を捨てて引退することを決意、自身の名剣「青冥剣(グリーン・デスティニー)」を北京の鐵(ティエ)貝勒に寄贈するために、密かに恋心を抱いていた同門の弟子で、鏢局を営む兪秀蓮(ユイ・シューリン)(ミシェル・ヨー〈楊紫瓊〉)に託す。シューリンは剣を無事に北京のティエ宅に届けるものの、その夜、剣は何者
かに盗まれる。シューリンに続いて北京にやってきたムーバイは、剣を盗んだのは、リーの師匠を毒殺した仇の女性・碧眼狐(ジェイド・フォックス)(チェン・ペイペイ〈鄭佩佩〉)ではないかと考える。一方シューリンは、そこで結婚を間近に控えた貴族の娘の玉嬌龍(
アン・リー〈李安〉監督による2000年の中国・香港・台湾・米国の合作作品で、原作は王度廬の武侠小説『臥虎蔵龍』ですが、五部作の第四部だけを映画化してもの。第73回アカデミー賞で英語以外の言語による作品でありながら作品賞ほか10部門にノミネートされ(監督、脚色、撮影、編集、美術、衣装デザイン、作曲、歌曲、外国語映画)、外国語映画賞など4部門を受賞しています。トロント国際映画祭の最高賞「観客賞」も受賞しており、トロント国際映画祭はアカデミーが公認している映画祭であるため、アカデミー作品賞ほかにノミネートされたものと思われます(ゴールデングローブ賞外国語映画賞、インディペンデント・スピリット賞及びロサンゼルス映画批評家協会賞の各「作品賞」も受賞)。
アン・リー監督は「両岸三地の中国人が力を合わせた結果、中国文化をアメリカに持ち込むことができた」と言っていますが、因みに、アン・リー監督とチャン・チェンは台湾出身、チョウ・ユンファは香港出身、ミシェル・ヨーは中国系マレーシア人で彼女も主に香港で活躍、チャン・ツィイーは中国出身。中国武侠映画は中国人に深く浸透しているものの、中国圏以外ではそれまであまり知られておらず、中国圏では古いタイプの物語がアメリカや日本の観客の眼には新鮮に映り、関心を持って迎えられたという事情はあったかと思います。
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それ以上に意外だったキャスティングが、我儘お嬢様で実は武闘家のイェン・シャオロンを演じるチャン・ツィイー(「
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でここまで撮れてしまうのかと感心する一方で、竹林のアクションシーンでは俳優達をずっと4,50フィートの高さに吊っていたというから、それなりの大変さはあったのでしょう。カメラマンのピーター・パウ〈鮑徳熹〉は、「あのようなアクションはハリウッドでは永遠に撮れないだろう。なぜなら、ハリウッドには、俳優を10フィート以上吊ってはいけないという規定があるから」と述べています。悪役・碧眼狐を演じたベテラン女優チェン・ペイペイさえも「今の武侠映画はCGを使えるのでとても便利だ」と言っているぐらいですから、こうした生身のアクションシーンはだんだん見られなくなるのではないでしょうか。
武侠映画のスタイルを取りながら、ストーリーとしては恋愛&ファンタジーといった感じですが、ラストで"ヒロイン"のイェン・シャオロンが

「グリーン・デスティニー」●原題:臥虎藏龍/CROUCHING TIGER, HIDDEN DRAGON●制作年:2000年●制作国:中国・香港・台湾・米国●監督:アン・リー(李安)●製作:アン・リー/ビル・コン●脚本:ジェームズ・シェイマス/ツァイ・クォジュン/ワン・ホエリン●撮影:ピーター・パウ(鮑徳熹)●音楽:タン・ド
ゥン/ヨーヨー・マ●原作:王度廬(ワン・ドウルー)「臥虎蔵龍」●時間:120分●出演:チョウ・ユンファ(周潤發)/ミシェル・ヨー(楊紫瓊)/チャン・ツィイー(章子怡)/チャン・チェン(張震)/チェン・ペイペイ(鮑徳熹)/ラン・シャン(郎雄)/リー・ファーツォン●日本公開:2000/11●配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント●最初に観た場所:渋谷東急(00-12-03)(評価:★★★☆)
